未来のかけらを探して

3章・過ぎた時間と出会いと再会
―34話・しばらくのお別れ―



ムヴィが帰った後、伯母さんがこう尋ねてきた。
「(ねぇプーレ、それでいつまでこっちに居るの?)」
「えーっと……ちょっとよっただけだから、
またすぐに出かけなきゃいけないんだ。」
「(忙しい子ねぇ。もっとゆっくりしていけばいいのに・・。)」
至極残念そうに伯母さんがため息をついた。
今日は巣にいる伯父さんも、びっくりしているようだ。
「(すぐって……じゃあ次は?)」
「う〜ん……わかんない。」
肉親にしてみれば心もとない返答だが、
実際、いつ帰れるか約束できないのが本音だ。
プーレに言わせれば、次に帰ってくるときは兄を見つけたときといいたいはずだろう。
しかし、さっきのムヴィとのやり取りのせいがあるのか、
はたまた相手の気持ちを純粋に考えての事か、口を濁すばかりだ。
大好きな肉親ががっかりする顔は、あまり見たいものではない。
「今度はどこにいくんだっけぇ?」
「バロンでいいんじゃないか?こっちとどっちにするかで、こっちにしただろ?」
「あ、そういえばそうだったかもぉ〜?」
いまいち頼りない返事だが、今わかればいいだろう。
「(バロンに?また遠いところに行くのねぇ。)」
「(行くんなら、城の近くの飛空艇便を使うんだぞ。
船はまだいいけど、歩きでいったら危ないからな?
高くても安全な方がいいんだよ。)」
道中を心配した伯父さんがアドバイスをしてくれた。
お金の心配よりも身の安全の心配をして欲しいというのは伯父心だろう。
「いくらかかるの?」
「(う〜ん……この間人間を乗せて行った町で、チラッと見たっきりだしなぁ。
船よりは高かったかな?)」
船賃より高いという事は、それなりのお値段はするだろう。
4人のパーティのうち、3人が子供だから安いということもない。
実際にいくらかはまだ分からないが、
前もって残金を数えた方が良さそうだ。
「1,2,3,4,5−……。
1000ギル銀貨をプーレが数える。
それなりの枚数があるが、運賃が払いきれるかはまだ分からない。
「船なら余裕で乗れそうだけどなー。」
「そうだね。うーん、飛空艇便っていくらなんだろ?」
船と比べてどれくらい高いのかはよく分からないが、
とりあえずこれだけあれば何とかなると思っておくことにして財布をしまった。
足りるかどうか気になっても、運賃が分からない今は仕方がない。
「(おじさんが覚えてればよかったんだけどねぇ。)」
「ううん、いいよ。教えてくれてありがとう!」
多少あやふやでも、教えてもらっただけありがたいものだ。
お金が足りなくても、ちょっとだけならどうにかなるしと、
プーレは珍しく楽観的に考えている。
「そういえば、プーレのおじさんとおばさんって、バロンに行ったことあル?」
「(ないねぇ〜。
商人さんに飼われてるって訳じゃないから、そんなに遠くには行かないのよ。)」
ダムシアンを挟んでという遠距離だから、
チョコボといえども確かにそう行けないだろう。
子供なのに、あちらこちら飛び回っているプーレは特例だ。
「そっかー、じゃあ知らないよネ。」
プーレ達は、厳密にはトロイアとバロンの国境辺りには行った事があるが、
当人達にはあまり自覚はないし、廃村だったので行った実感もない。
そういう事情もあって聞いてみたかったのだが、知らないのでは仕方がない。
出発まで残り少ない憩いの時間を、存分に満喫しておいた方が良さそうだった。


―翌々日―
本当は一日早く旅立つつもりだったが、
引き止められたこともあって都合3日ほどの滞在になった。
プーレのみならず、他のメンバーにも少々名残惜しい。
「(気をつけていくんだよ。
それと危なくなったら、ちゃんと近くのチョコボの森とか町に逃げるんだよ。)」
「うん、わかってるよ!」
心配してあれこれと気を揉む伯母さんに、
心配しすぎだよと笑いつつもプーレはちゃんと返事をした。
「それじゃ、お世話になりました。おばさん達も元気でな。」
「(ええ、ありがとう。気をつけてね!)」
アルセスが他のメンバーを代表して挨拶してから、
プーレ達はチョコボの森を後にした。
「今度来る時は、元にもどってからがいいよねぇ〜。」
「そしたら、もっとゆっくりもしていきたいよネ!
後、できれば冬とかサ〜。」
どうやら気に入ったのか、エルンとパササがきゃいきゃい楽しそうに歓談している。
話の輪に今は入っていないプーレも、故郷を褒められて何だか機嫌がよさそうだ。
「おれは春の方がいいんだけどなー。」
寒いのは苦手らしく、アルセスはぽりぽりと頬をかく。
“気にするなアルセス。この子達は寒冷地が出身だからな。”
「あ、そうだったな。あはははは〜……。」
ルビーの注釈で、アルセスはころっと納得した。
パササもエルンも寒い方が体が動くくらいなのだから、冬に来たがるのも何となく分かる。
もっともアルセスはいたって普通なので、元々冷涼なファブールの冬はごめんだが。
一度も来た事がなくても、他の季節で涼しいという時点で想像がつくというものだ。
「元にもどるといえば、すっかりわすれちゃってたよ……そのこと。」
「あ、プーレもわすれてタ?」
プーレも、という事は、聞いて来たパササ自身忘れていたのだろう。
もっとも今までの道中を考えれば、忘れても仕方がないのだが。
“この間思い出したくせに、もう忘れたのかー?
その年でぼけるなんて……うっ、涙出ちゃうぞ。”
「すててやろっかエメラルド?」
“あ、やめてよして。”
相変わらず応えてない様子で、
しらじらしく言うエメラルドにパササは余計怒りを覚えた。
「じゃあすてル。」
「ま、まあまあパササ……。いつものことじゃない。」
「いつもだからいつもムカつくんダヨ!!」
ごもっともな反論を怒鳴るように吐いて、パササはカンカンだ。
よく同じ事の繰り返しで飽きないなと、ルビーはこっそり呆れ半分に疑問視した。
もちろん深い追及はしない。
「それにしても、バロンか〜……。」
「ん?バロンって、何かあるのか?」
意味深に呟いたプーレの言葉が気になったらしく、アルセスが聞いてきた。
「ロビンとくろっちお兄ちゃんがすんでたんだって。」
「へ〜、じゃあ、興味とかあるってわけか!」
以前の仲間が住んでいた所なら、
今回パササとエルンがファブール訪問に乗り気だったように、
興味があっても全然おかしくない。
「確かバロンって、すっごい機械とかもあるらしいな!
おれは飛空艇くらいしか知らないけど。」
「えっ、飛空艇以外にもあるの?!」
「何ィー?!」
「え?いや、おれだってさ、あるってことしか知らないって。」
ぽろっとこぼしたら、予想外に食いつかれてアルセスはあわてた。
あくまでちょっと小耳に挟んだ程度なのだ。
すると、プーレはちょっと残念そうに、
パササはあからさまにつまらなさそうな顔をした。
露骨な態度には悪気がないので、アルセスも見ない振りでごまかして我慢する。
「すっごい機械って、どんなのかなぁ?アルセスみたいぃ〜?」
「お、おれみたいってどんな機械だよ?」
「がぉーで、力持ちで、歩くやつぅ♪」
「さっぱりわかんねー……。」
アルセスは全想像力を動員して頑張ったが、
残念ながらエルンが思い浮かべるようなものは浮かばなかった。
キマイラを機械化したようなものが、がおーっと鳴いて歩いてるのしか想像できない。
そもそも、最初の鳴き声のたとえからは、
どう考えても動物型の物しか想像できなくて当たり前という気がするが。
“悩むだけ無駄だぞー、少年。”
のんきなエメラルドのコメントが、アルセスの脳内に響く。
けっこう適当なコメントに呆れたりもするが、
今回に限っては言われたとおりであっている気がした。
「とにかく、なんかスゴそうダネ!!」
「おしゃべりもするよぉ〜♪」
「それって本とに機械なのかよ……?」
「うーん……あ、でも作れたらすごいよね。」
頭痛を覚え始めたように頭を抱えるアルセスの横で、
プーレもそんな事を言い始める。
機械がおしゃべりできたらすごいなと、純粋に考えているだけなのだが。
“機械はとりあえず置いておいてだ……。
とにかく、バロンに行けばまた何か新しい情報もあるはずだ。
先を急がないとな。”
行けば行った先で、また新たに判明する情報も多いだろう。
プーレの兄の情報にしろ、それ以外の情報にしろ、
国が変わればまたがらりと変わるのは世の常だからだ。




―ファブール飛空艇空港―
ファブール城周辺まで引き返してきたプーレ達は、
用意を整えてから城の近くにある空港にやってきていた。
この空港は元々有った港に隣接していて、人や貨物の輸送を船と連携して行えるようになっている。
飛空艇は船と比べればそれほど便数は多くないのだが、
内陸の貨物輸送においてはとても重要な役割を果たしているという。
最もこのことについて、もちろんプーレ達は知っているわけではない。
ただ、行き来する人と荷物の多さに、
ここが港らしい活気に溢れる場所だと認識している。
「うっわ〜、ひさしぶりに飛空艇だね!」
「しかも、超豊作ダヨ!」
「すっごいなー……うっひゃあ!」
上空を掠めるように飛んでいった小型飛空艇を見て、
アルセスはすっとんきょんな声を上げる。
小型とはいえ、低空で飛んでいると思わず驚くほどの迫力だ。
「あんな飛空艇、はじめて見たぁ〜!」
“たぶん、近距離をちょくちょく往復する型なんだろうな。”
一般の船の知識からだろうが、ルビーはそう推測する。
大きい通常の飛空艇よりも積載量は劣るだろうが、
その分燃料も少なくて済んで小回りも利くだろうから、
しょっちゅう飛ばすには向いているかもしれない。
“はいはーい、感動してないで乗り場探そうなー、おのぼりさんズ〜♪”
(いちいちバカにすんな……ムカツク!)
パササが小声で不快感をあらわにする横で、プーレもこっそりため息をつく。
(いいじゃん、少しくらい見てたって……。)
迫力があって見た目にもかっこいい飛空艇は、ついつい眺めていたくなるのが子供心。
茶化されて、珍しくプーレも不満げだ。
とはいえ観覧に来たわけではないのだから、乗り場を探すことにした。
空港は、隣接している港とあまり境がはっきりしていないから、
本来の面積よりも広い気がする。
だが、基本的に平らな場所なので、建物は倉庫を除いてはそう多くない。
意外と迷わず、一行は乗り場を探し当てた。


「おう、坊主達も乗りに来たのか?」
人が多い時間を過ぎているのか、
幾分暇そうにしていたチケット売りの若い男が威勢よく声をかける。
「うん!ねーねー、いくらなノ?」
「行きたい場所によって変わるから、そこの張り紙見てくんな。
最低でも1人600ギルだ。」
「うわっ、た……高いな〜!」
ファブールに船で来た時とは段違いの価格設定に、アルセスは舌を巻く。
途中でプーレが数えていたお金の額を見た時は、
大丈夫だろうと思ったが、バロンまではもちろん最低料金ではいけないから急に心配になってきた。
運賃だけならまだ払えるだろうが、問題は残額である。
“いくら入ってたかなー?ギリギリだとやだよなー。”
“移動に時間がかからないことが幸いだな……。”
動力に機械を使わない旧来の船よりもずっと早い飛空艇は、
バロンだけが持つ高速の軍事用でなくても、かなり移動日数を短縮できる。
何より、風が穏やかなら船よりも揺れが少なくて済むのはおいしい。
「バロンまでいくらかなぁ?」
「750ギルだってさ。プーレ、足りそうか?」
「えーっと、だいじょうぶ。でも、けっこうへっちゃうね……。」
一応5000ギル以上持っているから、運賃は大丈夫だ。
ただ、4人分で3000ギルというのは、少なくない出費である。
「じゃあお兄さん、バロン行きのチケット4人分頼むよ。」
「OK、ちょうどだな。ほら、こいつがチケットだ。
次の便の時間が書いてあるから、こいつに遅れるなよ。」
「わかった。ありがとう!」
アルセスは受け取ったチケットを、いったん全部自分の荷物にしまう。
パササやエルンに渡すと落としてしまいそうだから、乗る時に渡すのである。


それからしばらく周辺の散策で時間を潰してから、
一行はバロン行きの飛空艇便に乗り込んだ。
力強いエンジンがうなりを上げて、天に舞い上がる飛空艇。
後はバロンまで、何もなければのんびりとした空の旅だ。
今日はモンスターが現れない、平和な空であることを祈るばかりである。



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バロン行きになりました。
あの世界の物価はよく分からないですが、飛空艇は船より高そうですね。
バロンは飛空艇の開発国だから少し安そうですけど。
書いてる方も目的を忘れそうですが、次も頑張って書きます。
今回ちょっと遅れましたからね。